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査読雑誌の終焉

昨今は大学においても短期的な成果を求められ,特に「大学ランキング」が重視される傾向がある。中でもインパクトファクタの高い国際雑誌の登載論文が重視される傾向にあるが,Web of Science®に含まれる論文の使用言語(2013 年)を見ると,英語が96.1%,次がドイツ語の1.00%であり,日本語は11位の0.06%に過ぎない。

日本の高等教育は,明治のお雇い外国人から始まり,如何に海外の知識を取り込んで消化するかに力を注いできたが,これからは如何に知識を伝えるかが重要であることは論を俟たない。しかしその反動として,日本国内の学会誌が空洞化する懸念もあるし,人文・社会科学のように,執筆から刊行に至る周期が長い分野では,過去2 年間の刊行論文における引用のみを計測するインパクトファクタは,影響を的確に捉えるものとは言い難い。

近年は研究成果が数量的に評価される場合が多いため,論文投稿数やそれを掲載するための査読雑誌も増加する傾向にあり,いわゆる「査読公害」が発生している。本来は雑誌紙面という限られた資源を効率的に配分するために,査読システムが必要とされたはずだが,現在はWeb等を通じて,いつでも誰でも研究成果を公表するチャンネルは確保されている。従って査読雑誌という20世紀型のビジネスモデルを脱して,事前査読から事後評価への転換が必要な時期に来ていると感じる。

単純にダウンロード数の多寡で論文の質を評価することは危険だが,例えばWeb上に公開された論文への「良いリンク集」が,既存の学術雑誌に取って代わること等が考えられる。学術雑誌の世界では,Elsevier, Springer, Wiley-Blackwell等の一握りの出版社による寡占化が進み,独占力を行使した値上げが繰り返されるが,そろそろ「出版社外し」を考えてもよい時期に来ている。

むろんWeb上でも,同様の主張は散見されるので,一部を例示しておく。
  • 査読はどうあるべきなのか
  • なぜエルゼビアはボイコットを受けるのか
  • 学会誌をどう出版するか:商業出版社に託す場合の注意点
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    国立大学共同研修施設

    夏は合宿の季節だが,国立大学共同研修施設は近畿を除く各地区に2箇所ずつ設置されている。かつて利用した人も多いと思うが,施設一覧はWeb上に見つからないので,備忘録的にまとめる。ただし公務員の定員削減(法人化後は人件費への効率化係数→改革促進係数適用)によって,旧行(二)職の欠員不補充が一般化しているため,民間委託の施設が増加してきている。

    大学職員で運営されている場合は,週休2日や計画年休が適用されるため,開所日減少に伴う混雑とスケジュールコストの増加が使い勝手を悪くする一方,民間委託の場合はサービス要求水準を適切に定めることにより休日を少なく設定できる。さらに二部料金制に類する方法で,対象地区以外の参加者の料金を高くしたり,極端な場合は参加を拒否する施設もあるなど,運営方法には統一性が無い。

    中には一般客を受け入れる施設まであるが,他地区からの参加者を拒否するのは教育面での交流を阻害することになるため,本来の研修目的にはそぐわない。一般に関税障壁の方が非関税障壁より厚生損失が少ないのと同様,他地区参加者を物理的に排除するよりは,他地区参加者への加算料金を設定する方がマシだと言える。

    [北海道地区]
  • 大滝セミナーハウス(北海道大学):伊達市大滝区
  • 屈斜路研修所(北見工業大学):北海道川上郡弟子屈町

    [東北地区]
  • 川渡共同セミナーセンター(東北大学):大崎市鳴子温泉字原
  • 蔵王山寮(山形大学):山形市大字蔵王字地蔵山

    [関東甲信越地区]
  • 草津セミナーハウス(群馬大学):群馬県吾妻郡草津町
  • 山中共同研修所(筑波大学):山梨県南都留郡山中湖村

    [東海・北陸地区]
  • 中津川研修センター(名古屋大学):中津川市苗木
  • 辰口共同研修センター(金沢大学):能美市松ヶ丘

    [中国・四国地区]
  • 大山共同研修所(鳥取大学):鳥取県西伯郡伯耆町
  • 西条共同研修センター(広島大学):広島県西条市

    [九州地区]
  • 九重共同研修所(九州大学):大分県玖珠郡九重町
  • 島原共同研修センター(長崎大学):島原市礫石原町
  • School Year

    2006年9月に発足した第1次安倍内閣は,政権構想の中で「大学(国公立大)の入学時期を9月に変更し、高校卒業から大学入学までの間にボランティア活動を義務付ける」施策を「教育再生」の一環として唱えていた。この時には,高校卒業から大学入学までの半年間の「ギャップターム」は,ボランティア活動等の社会経験を通じて規範意識の向上を図る機会,として捉えられていた。

    東京大学でも濱田学長が9月入学を提唱したが,むしろ研究・教育面での国際交流の促進が主眼であり,欧米の主要大学とセメスターが一致しないことが単位取得を伴う短期留学や,サバーティカルの運用(送出し・受入れ共)を困難にしているという認識に基づくものと言える。結局,学内の意思が統一できず,クォーター制の導入に落ち着いた経緯がある。(学内広報「入学時期の在り方に関する懇談会中間まとめ特集版」2012.1など参照)

    第2次安倍内閣では,THE(Times Higher Education)等の大学ランキング向上のための「グローバル化」を狙って,留学生や外国人教員比率の向上を目指す政策に変容しているが,「近視眼的偏差値対策」に汲々とする結果,高等教育の本質を見失うようでは本末転倒であろう。

    因みに9月入学がグローバルスタンダードのように喧伝されるが,これは北半球中緯度に先進国が多いことの帰結であって,学年暦の期間は国によって様々である。実際,日本の学年暦・会計年度は,世界第2位の人口大国であるインドと一致しており,韓国や南半球のブラジルも微調整の範囲にある。(UNESCO/文科省調べ)

    国名学年暦会計年度始期国名学年暦会計年度始期
    アメリカ9月~6月7月オーストラリア1月~12月7月
    イギリス9月~7月4月カナダ9月~6月4月
    フランス9月~7月1月メキシコ9月~7月1月
    ドイツ8月~7月1月ブラジル3月~12月1月
    イタリア9月~6月1月インド4月~3月4月
    デンマーク8月~6月1月中国9月~7月1月
    ロシア9月~6月1月韓国3月~2月1月

    日本では高等師範学校の入学時期が,1887(明治20)年度から会計年度に合わせて4月になり,その他の師範学校や小学校もこれに引きずられる形で4月入学となった。さらに中学校も1901(明治34)年度から4月入学が法制化されたが,旧制高校・大学については9月入学が維持されていた。これが4月に揃えられたのは,旧制高校については1919(大正8)年,大学については1921(大正10)年であり,その時の理由はやはり「会計年度と一致しないと不便だ」ということであった。

    しかし上表を見てもわかるが,学年暦と会計年度が一致している国は稀であって,何でも大蔵省(財務省)の基準に合わせるということに必然性はない。大正期までは旧制高校の入試は中学卒業後の「ギャップターム」に行われていた訳で,その期間の使われ方には興味がある。例年,センター試験や個別学力試験は雪害に悩まされるが,少なくとも当時は,それに類する心配は無かったはずである。

    就職協定が変更になって,就職活動が3月以降に繰下げになったが,大学における勉学時間を阻害することには代わりはなく,特に理系では卒・修論の作成時間が取れなくなる懸念がある。たとえば大学を9月入学7月卒業にして,8月から翌年3月までの間に就職を決めるなど,大学入学前後に延べ1年のギャップイヤーが取れれば,教育の質保証やスケジュール的余裕の意味で望ましいが,それに対する反論はその間1年分の生活費の支弁方法である。となれば,やはり新卒一括採用に問題があるとなって,議論は堂々巡りに陥る。

    スーパーグローバル大学

    文科省は9月26日,「スーパーグローバル大学」37校を発表した。その内訳は以下の通り。

    【トップ型】(13校) 北海道▽東北▽筑波▽東京▽東京医科歯科▽東京工業▽名古屋▽京都▽大阪▽広島▽九州▽慶応義塾▽早稲田

    【グローバル化牽引型】(24校) 千葉▽東京外国語▽東京芸術▽長岡技術科学▽金沢▽豊橋技術科学▽京都工芸繊維▽奈良先端科学技術大学院▽岡山▽熊本▽国際教養▽会津▽国際基督教▽芝浦工業▽上智▽東洋▽法政▽明治▽立教▽創価▽国際▽立命館▽関西学院▽立命館アジア太平洋

    「トップ型」とされた13校の顔ぶれは,旧帝7大学に筑波・東工大・早慶を加えたいわゆる「RU11」に医科歯科と広島を加えたもので,驚くに値しない。このうち広島は下の記事にもあるように,旧高等師範でいわば筑波と同格とされる大学であり,ほぼ現状追認と言える。

    文科省的には,旧帝大に続く旧六グループがある。旧制時代に医科大学が設置されていた,千葉・新潟・金沢・岡山・熊本・長崎の六大学で,このうち「牽引型」には4校が含まれている。技科大は国立の2校とも選出,先端大は2校中奈良が選出されている。公立大では,首大や大阪市大のような伝統校は含まれず,会津・国際教養のような新しいコンセプトに基づく大学のみが選出されている点に特徴がある。

    しかし「THEランキング100位以内に10校!」を自己目的化することに,教育・研究上の理念は感じられないし,ランキングは本来結果であって,目的であるべきではない。一方で研究には,予算的・時間的余裕が必須であるが,日本のGDPに対する高等教育への公的負担率は0.5%に過ぎず,OECD34ヶ国中最下位で平均値1.0%の半分に過ぎない。(13表; データは2008年) 圧倒的な兵站不足に対して精神論で立ち向かえという指示なら,何やら先の大戦から進歩が無いように聞こえる。

    2006年11月,足立区が公立学校の予算を学力テストの成績の変化分に連動させる方針を発表したことは各方面の批判を浴び,1年足らずで撤回に至った。成績が伸びれば予算を厚くすることが教員へのインセンティブになると考えたのだろうが,これでは格差が固定化・拡大するだけで,公教育全体の底上げには繋がらない。文科省予算に上限がある以上,特定大学に予算を厚くすることは,他の大学の予算を薄くすることであり,日本の高等教育全体の底上げには繋がらないことに留意すべきだろう。

    東京と・・・日本の高等教育機関

    東京五輪の開催が決まり,今後ますます東京への資源集中が加速されることになるが,リスク管理の観点から望ましくない。東京直下型地震にせよ,東海地震にせよ,今後数十年の間に関東平野が大規模地震に襲われることは避けられないし,「国土強靭化」を名目とするインフラ投資で防げることには限界がある。

    北米東部や北欧のように地震が殆ど無い地域なら,資源集中により全体のパイを大きくすることは,適切な分配システムが伴う限り効率的だが,集中投資された地域が壊滅すれば,投じられた資源の相当部分が滅失し,財政的にも復旧は困難を極める。従って長期的視点からは,国土計画上,適切な分散化を図ることが必要である。

    明治以来,政府にとっての分散は「東京+どこか」というスタンスが貫かれている。たとえば明治期の官立高等教育機関について,種別ごとに最初に設置されたものと2番目に設置されたものを列挙すると以下のようである。

  • 帝国大学:東京(1886→東京大),京都(1897→京都大),次は東北(1907→東北大)
  • 高等師範:東京(1886→筑波大),広島(1902→広島大),次は金沢(1944→金沢大)
  • 女子高等師範:東京(1890→お茶大),奈良(1908→奈良女)
  • 高等商業:東京(1887→一橋大),神戸(1902→神戸大)
     ※官立以前に大阪府立(1885→大阪市大)が設立
  • 高等工業:東京(1901→東京工大),大阪(1901→大阪大),京都工芸(1902→工繊大)
     ※高等工業学校成立以前に,三高(1894)と五高(1897)に工学部を設置
  • 高等商船:東京(1882→東京海洋大),神戸(1920→神戸大)
  • 外国語:東京(1899→東京外大),大阪(1921→大阪大)

    全ての種別について初めに東京に設置し,次にもう1ヶ所どこかに設置するという方針は明白だが,音楽学校・美術学校(東京芸大)のように,唯一のものは当然の如く東京に設置された。2ヶ所目は関西圏が殆どだが,元々京都・大阪・神戸の多極型都市圏であるため,関西圏内での分散配置の結果,高等教育でも東京の圧倒的優位は揺らがなかった。
  • 医学系入学定員

    「緊急医師確保対策」等によって,総入学定員は以下のようになっている。

      医学科:7,625名(19年度)→8,486名(21年度)
      歯学部:2,657名
      獣医学科:930名

    昨年度までは医学科:歯学部=3:1程度だったが,oral hygieneへの関心の高まりから虫歯自体が減少傾向にあることもあり,歯科医師が供給過剰であることは事実。従って,歯学部定員を医学科に振り替える話も出てくる。(医学部には保健学科等が含まれるため,「医学科」と記載している。)

    ====引用開始====
    8/5文科省が通知 歯学部定員削減分を医学部定員に上乗せへ

     文部科学省高等教育局は8月5日、医学部を置く各国公私立大学長に対し、平成21年度の医師養成課程の入学定員の増加を求めた「地域や診療科の医師確保の観点からの医師養成の推進について」の通知を送付した。これは、本年6月27日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2008」を踏まえ、医師不足が深刻な地域や診療科の医師を確保する観点から、医師養成数を「早急に過去最大程度まで増員」することを目的としたもの。対象となる大学は、医師養成課程(医学に関する学部又は学科)を有する大学。
     通知では、医師養成課程と歯科医師養成課程を併せ持つ私立大学についても触れている。「歯科医師養成課程を有する私立歯科大学が、歯科医師養成課程の入学定員を平成10年度比で10%を超えて削減する場合には、教育上支障のない範囲で、当該削減数を医師養成課程に係る入学定員に加えることを認める」とされた。歯科医師需給問題については、昭和61年に入学者数の20%(676人)、平成10年に旧厚生省から最小限10%(271人)の削減を求める報告書が出されていた。しかし、平成19年度の入学定員は、目標入学定員より224人増の2657人になっている。
    (デンタルタイムス21)
    ====引用終了====

    今年度は医学科定員が全国で860人(約11%)増加したため,医学科への鞍替えが例年より遥かに容易になっている。このため歯学部における入学辞退者の続出が懸念される。一方,鳥インフルエンザ対策など公衆衛生部門でも獣医師の需要は高まるが,獣医師についても職域による偏在(不足)が問題となっている。

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